【過去記事再掲】「木の枝のような作品を作りたい」 新進作家「ちょふ」さん
※こちらの記事は2019年にwebマガジン『alore』(2020年閉鎖)に掲載された記事の再掲載です。
《作品Ⅱ》2019
淡く優しい色で満ちた不思議な世界を、群青色のペンで描かれた大小様々な不思議な生き物たちが所狭しと泳いでいる。
生き物たちと私たちの間には、鱗のような網目のようなものがあるが、これはいったいなんだろう。
中央の大きな魚のような生き物には、丹念に描かれた模様があり、思わずその細かい描写に目を凝らしてしまう。
視点を変えて作品全体で見ると、どこか物語性も感じさせる楽しい作品だ。
作者は、この春学校を卒業したばかりの新進作家、ちょふさん。
ちょふさんは、どんな思いで作品づくりをしているのだろうか。
お話を聞いてみた。
「木の枝のような作品をつくりたい」
《作品Ⅰ》2019
こちらのモノクロのペン画も、細かい模様が丹念に描きこまれていることに注目してしまうが、一見何が描かれているのか、すぐに判断するのは難しい。
見る人によって、描かれているものに対する解釈が異なるだろう。
ーーー受け手が色んなものに見立てて、想像して遊べる作品を作っています。
「この子たちはどこに行くのだろう?」と物語をつくってもいい。みる人によって捉え方が変わってきますから、複数人で作品をみながらお互いに問題を出し合ってもいいし、感想を言い合うも良し。
《作品Ⅲ》2019
じっくり見つめていると、様々なモチーフが見つかる。
あなたには中央の正方形の空間に描かれたものが何に見えるだろうか。
ちょふさんは何故「受け取り手によって捉え方が変わる作品」をつくりたいのだろう。
そのきっかけは、年の離れた妹との間に感じた、感覚のズレにあったという。
ーーー私は田舎育ちで、外で走りまわり、木の枝や石を使って、テレビアニメのヒロインの魔法のスティックにみたてて遊んでいましたが、10歳下の妹は引っ越したこともあり私と違う生活環境で育ちました。外でボールで遊んでいる姿もみましたが、学年が上がるごとに、スマートフォンのアプリゲームや動画を見る時間が大半を占めるようになりました。
上手くは言えませんが、そういう違う環境で育った妹と話していると、どこか感覚や見方が違うように感じます。
どちらが良い悪いという話ではありませんし、もちろん違う人間ですから同じ感覚なはずがありません。ですが、何か大事な根本が違う気がするのです。
妹という身近な存在が、自分と違うモノに囲まれ、影響を受けて成長していく姿を目の当たりにしてきたが故に気づいた、リアルな違和感。そこから生まれた問題意識が、ちょふさんの中にあるようだ。
ーーー私は、受け取り手によって色んなものに見立てて遊べる、木の枝のような作品をつくりたいです。子どもたちが公園でボールで遊んだり、『汚い』『危ない』という理由で石や枝で遊ぶ機会が減っているように感じます。私の作品を通して、子どもたちが考えて連想して、広げて、工夫して、そうして遊ぶ楽しさを味わってもらえたら幸せです。
子どもの想像力は「遊び」の中で自然と育まれていく。
昨今、そうした子どもの「遊び」が変質してきていることを指摘する声は、教育界や地域活動の現場からも聞こえてくる。
ちょふさんの言うように、「遊び」が変わってきていることが良いか悪いか一概に言えるものではないが、ちょふさんは自らの実体験から生じた違和感をもとに、作品づくりに向き合っている。
ふなばし美術学院時代のデッサン。
「学生時代は、デッサン力をきちんとつけた上で自分なりの描き方を見つけようと努力していました」
自分なりの答えを考える絵本
現在、ちょふさんは作品の制作と並行して、子どもたちのために自分に何ができるか模索する活動を続けている。
ーーー千葉を拠点に活動するFLTという団体のメンバーになっています。
FLTは今を、そして新しい時代を心豊かに生きるために、正解のない問題に対して”自分なりの答えや考え”を出すことが大切だと考えています。その力を身につける為に、子ども向けのワークショップや分野の域を超えた交流会を開き、場を作っています。
一人でも多くの人が「自分はこれだ!」と思えるよう”感性に響き、創造力を高める体験”を提供していきます。
作品のコンセプトと合致した活動をし、成長する努力を怠らないちょふさん。
そんなちょふさんは今、絵本作家を目指しているという。
ーーー妹が幼い時、どうやって関わったらいいか分からなかったのですが、絵本を読んであげたらとても喜んでくれて。自分とは違う感覚を持つ妹と、絵本を介してコミュニケーションをとることができた経験から、絵本を通して、多くの子どもたちとつながりたいと思うようになりました。
具体的には、やっと言葉を発しはじめたくらいの子どもが、読んでくれる大人と一緒に楽しめるような絵本をつくりたいです。
子供と大人が一緒に考えて、ページ毎に絵から物語を作り出すような絵本にしたいですね。
カラフルな絵本は魅力的ですが、色は解釈を狭めてしまうこともあります。
マーブリングで色をあえて指定しないようにしたり、黒と白だけにしたり、自由な発想ができるように工夫した作品づくりを心がけています。
絵本を選ぶのは大人ですから、選んでもらうにはどうしたらいいかも考えています。
「いま」を敏感に感じ取る若い感性に期待
多様性が尊重される、この社会の流れは加速していくだろう。様々な価値観を持った人々と接する機会が多くなる社会で、「自分の中にはなかった価値観」を理解するには、相手の立場を思いやる「想像力」が必要だ。相手を思いやることのできる「想像力」は優しさにつながる。ちょふさんの絵本に出会った子どもたちが、自分で考え、想像する力を身につけ、優しさを育てていってくれたらと期待が膨らむ。
ちょふさんは社交的で、明るい。
若く瑞々しさ溢れる女性だが、言葉の端々から彼女なりの哲学・美学を持っていることが伺え、頼もしさも感じる。
「駆け出しですし、技術面もまだまだ学ばないと」
そう謙虚に話す彼女が今後どのように成長して活躍してくれるか、楽しみに見守りたい。
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